今回はお子さんの成長に大きな影響を与えるといわれる「口腔機能発達不全症」について詳しくお話ししたいと思います。
口腔機能発達不全症を防ぐためには、赤ちゃんが産まれてすぐ始まる授乳からの関わりが大切になってきますのでプレママさん、プレパパさんにもぜひ読んでいただきたい内容になっています。
そして、0歳~のお子さんをもつパパママさんもできるだけ早く口腔機能発達不全症について知り、予防もしくは治療していくことが大切になりますので最後までお付き合いくださいね!
口腔機能発達不全症とは

口腔機能発達不全症は簡単にいうとお口の本来の「呼吸する」「食べる」「話す」などの機能が正常に獲得できていない状態のことをいいます。そして、近年とても増えてきている状況です。
そもそも「お口の機能を育てる」という考え自体ほとんどのパパママさんに無いと思います。だって、聞いたことないですよね?「お口を育てましょう」って。歯科衛生士の私でも自分の子供が産まれた十数年前には聞いた記憶がありません。
ここ数年チラホラ耳にするようになった印象で、「口腔機能発達不全症」は2018年に保険収載になっています。
口腔機能は放っておいて自然に発達するものではありません。
母乳やミルクを吸って飲むことからはじまり、少しづつ離乳食が進むことで段階的に発達していくものです。この段階的に正しくお口を動かすことを知らないまま授乳や離乳食を進めたり、間違った姿勢や与え方をしてしまうと、お子さんの正しい成長と発育を阻害してしまう可能性もあります。
体の成長に個人差があるようにお口の成長もお子さんによって様々です。その子の成長に合わせ発育を促していくことがとても大切です。育児の本やネットの情報はあくまでも基本であり目安ですので、お子さんの成長をみながら離乳や離乳食を進めていく必要があります。
口腔機能発達不全症の3つの要因
現在、口腔機能の成長発達を阻害するものとして、大きく3つの要因があると考えられています。
乳児嚥下の残存

乳児嚥下の残存と聞いてもピンとこないと思いますので、ひとつづつ説明していきますね!
乳児嚥下は「原始反射」のひとつです。赤ちゃんは産まれてすぐでも口に乳首が触れると吸います。これは頭で「吸おう」と考えて行動しているのではなく無意識です。原始反射は生きるために与えられた生体の反射機能なんです。
そして、成長とともに離乳食がはじまるとお口の動きも変わってきます。吸うだけじゃなく段階的に複雑な動きができるようになり原始反射である乳児嚥下は消えていきます。「無意識で吸う(乳児嚥下)」から「意識して食べる(成人嚥下)」に変わっていくことが大切です。
「乳児嚥下の残存」は、本来、離乳により消失していくはずの乳児嚥下が残っている状態ということです。この乳児嚥下が何らかの原因で残ってしまうと、本来、食べるときに行う「成人嚥下」とは違う口の動きをしますので、舌や頬、口まわりの筋肉が正しく発育しないということが起こります。また、消えるはずだった動きが残っていますので歯並びや顎の成長にも大きな影響を与えます。
口呼吸
近年、メディアでも「口呼吸=口で呼吸すること」の弊害について度々目にするようになりましたが、様々な原因で鼻呼吸ができず、口で呼吸をするお子さんが増えています。口呼吸は鼻呼吸と比べると、雑菌やほこりなどを含む乾燥した冷たい空気が直接肺に入るため、酸素が供給しにくい状態になったり、風邪などの感染症にかかりやすくなります。また口が乾燥すると虫歯や歯周病も悪化しやすくなるなど多くの弊害があるといわれています。
また、口呼吸になるとお口がポカンと開いた状態になりますので顔貌の成長にも影響を及ぼします。
舌は本来スポットと呼ばれる位置に舌先が付いている状態が正常なのですが、口で呼吸をする習慣があると、舌が落っこちている低位な状態(これを低位舌と言います)になりやすく、嚥下の機能発達に悪影響を及ぼします。舌の機能についても口呼吸と同様にTVなどでその重要性が取り上げられることも増えてきています。

低位舌(ていいぜつ)

舌のポジションや発育は一番重要で、普段から舌の先が「スポット」と呼ばれる場所に触れていることが基本です。そして、飲み込む(嚥下する)際には、上あごにしっかり密着するように押し上げられることがとても大切です。この動きによって上顎は正常に広がり歯もきれいに並びやすくなります。低位舌は口呼吸と関係していて歯並びにも影響をあたえます。舌の動きが悪いケースでは、舌小帯(ぜつしょうたい)と呼ばれる舌の裏側のスジが短いことがありますが場合によっては切除することもあります。
主にこの3つの要因がお互いに影響し合って「口腔機能発達不全症」の状態になってしまいます。

集中力の低下や顔まで変わってしまう!口腔機能発達不全症の弊害
まず、乳児嚥下の残存ですが、どの動きが残っているかによって受け口(反対咬合)になりやすくなったり、開口といって奥歯しかかみ合わない状態になったりと違いはありますが、ざっくり言うと歯並びに影響がでてきます。また、上あごにしっかりと舌を吸着させて飲み込めないと成長が不十分になることも多く、上の歯列がU字型ではなくV字型になりがちです。
そして、口呼吸は口や歯並びに悪影響を及ぼすだけだなく全身にかかわってきます。
3つの要因の「口呼吸」でも書いたように、顔が正しく成長しなかったり、免疫力も低下します。集中力もさがりますので学習能力や運動能力にも影響を及ぼすこともあります。
つまり、お子さんが本来持っている能力や発育ができないということに成りかねません。
そして、口呼吸をすることで低位舌を招きやすくなります。
低位舌になると舌という巨大な筋肉が喉元に沈下していることになりますので、顎のラインが垂れ下がったり、気道が狭くなり上手く飲み込めない、むせやすい、無呼吸などの支障がでてきます。
口腔機能発達不全症は防げる?治療はどんなことをする?

口腔機能発達不全症かどうかの診断や予防、治療については歯科医院で相談し指導してもらうことができます。
0歳~15歳のお子さんは保険治療の対象になりますが、併せて矯正治療などが必要な場合もあります。その際は保険がきかない場合がありますので、まずは歯医者で相談してみてくださいね!
歯科医院では、お子さんの正常な機能発達が得られるように「正しい発達を促すトレーニング」がメインになるかと思います。「あいうべ体操」やガムを使用したトレーニングの他にお口を閉じるためや筋力アップ、舌の動きを改善するような装置を用いて本格的なトレーニングをする場合もあります。
▼たとえばこんなトレーニング器具
子供の口腔機能は、常に発達の過程にありますので成長段階において正常な状態だったのに悪い癖がついてしまったり、機能の発達が遅れていたりということもあります。その都度、修正や回復を早い段階で行い正しい成長に導いていくことが大切です。
できれば定期検診を兼ねて3~6ヵ月に1回程度、歯医者でチェックしてもらうことをオススメします。
ちょっと専門的なお話しで難しかったと思いますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。